ピザ
ピザ、食べたない?
私のピザの思い出は一つだけ印象的なものがある。
私の出身地にはピザ屋と呼ばれるお店がなく、買いに行くには車か電車に乗らねばならなかった。
父がチーズの匂いを嫌うのもあり、あまりピザというものを食べる機会がなかった。
そんなある日突然母が言った。
「ピザ、食べたない?食べたいんやったら今度の日曜日行こに」
食べたい。どんなものなのか。とても気になる。初めてのピザとやらにとても心がワクワクした。
日曜日。何故か母に動きやすい靴を履くように言われ向かった先は山だった。てっきりピザ屋に行くものだと思い困惑している私に母が言った。
「あれ?言わなかったっけ?町内の子ども会でハイキングに行くの。お昼は牡蠣のピザよ。」
だまされた。子どもながらにそう思った。
周りを見ると普段同じクラスのやつらがいる。
今思えば、クラスで浮いてしまい、クラスメイトと一言も話さず帰宅する日々を過ごしていた私を心配して連れ出してくれたのであろうが、その時の私はただ迷惑だと思った。でも帰りたいとも言えず無言で母について行くことにした。
インドアおデブちゃんには山はきつい。正直限界はすぐに来た。でも置いていかれるのも嫌でひたすらほどほどに舗装された道を歩く。見渡す限り一面の緑でつらい。あと友達がいない。
色んなことが自分にとって辛かった。
だがそのつらさのおかげで頂上に登った時の達成感が大きかった。
頂上で食べた牡蠣のピザの味は今でも忘れられない。牡蠣のほろ苦さがチーズで上手く調和された焼きたてのピザはそれはもう今までに食べたことの無い味だった。
全ての辛いことがどうでも良くなった。
そう言えば牡蠣の旬はちょうど今だった。牡蠣ピザというちょっと斬新なピザを売ってくれるところを未だに私は探している。
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